ピングーとうたおう!

 ゴールデンウィークに池袋で「ピングー」のイベントが催された。

 ピングーはスイスで制作されたペンギンのクレイメーション(粘土を使ったアニメーション)で、老若男女を問わず楽しめるほのぼのとした心温まるストーリーが魅力で、我が家では親子揃ってこのキャラクターが好きなのであった。

 そのため、このイベントにはすぐに行く予定だったのが、連休最初に病でダウンしてしまったため、なかなか足を運ぶことが出来ずにいた。

 しかし、このフェアは連休が終わると終了してしまうので、まだ体がふらふらするものの、とりあえず熱は下がったので、ゴールデンウィークの最終日に小学生の娘を連れて出かけていった。

 

 最終日だからなのかもしれないが、会場は意外にすいており、並ぶこともなくすんなりと入場して、中に入ってからものんびりと展示物を眺めることが出来た。数年前に、やはりこのイベントがあったときには、えらい行列と混雑で難儀した記憶があるので、これはありがたかった。

 

 ところで、そのままのんびりと順路に沿って展示物を見て歩いていたかったのだが、会場内の係員がなにやら大きな声で客に呼びかけている声が気になった。

 

「『ピングーとうたおう』のイベントがもうすぐはじまりまーす。」

「本日、この回が最後になりまーす。まもなく始まりまーす。」

 

 そう言えばホームページに次のような告知があったことを思い出した。

 

イベント会場で、展示コーナーを過ぎると、ステージが・・・。

そう!ここでは、本邦初公開のピングーによるステージショー

「ピングーとうたおう」が上演されます。

ピングーたちが繰り広げるショーをお楽しみに!

 

 近くに行ってみると、このショーは有料で、大人子供を問わず300円取ると言う。すでに入場料で1000円(子供700円)払っているのに、この上まだ取るのか。

 しかし、「本邦初公開のピングーによるステージショー」である。これを見逃したら後悔するかもしれない。また、有料にするということは、それだけ内容に自信があるともとれる。だとすれば、子供を喜ばせるために見せてやりたい気もする。うーむ。

 

「この回が本当の最後でーす。もうすぐに始まりまーす。」

 

 呼び込みの声が気持ちをあせらせる。ええい、せっかくだ。入ろう。

 結局、娘の分と券を二枚買って列に並んだ。

 しかし、ステージのある会場の中に入って驚き。ガラガラなのだ。当然一番前の席に座る。いぶかしげに時計を見ると、開始予定時刻まで20分以上あるではないか。なにが「もうすぐに始まります」だよ。

 仕方がないので、席に座ったままずっと開演時間まで待っていると、後から来た客は皆、椅子の前のスペースにじかに座っていく。ありゃ、それもありか。まあいいや。地べたに座ると疲れるから。

 

 さて、やっと開演時間になって、なにやらやたら元気のいいねえちゃんが出てきた。どうも司会者らしい。続いて、ピングー・妹のピンガ・ガールフレンドのピンギの着ぐるみも登場。おお、いよいよ始まるぞ。どんなショーを見せてくれるのか? 隣に座る娘も目を輝かせている。

 

 まずはそれぞれのキャラクター紹介を司会の元気なねえちゃんがする。

 だが、聞いていると、紹介されるそれぞれのキャラクターの特徴が、どうも微妙に原作を踏まえていない。台本を書いた人間がイマイチこの作品のことをよく理解していないようなのだ。

 紹介の最後に、元気なねえちゃんは自分のことを「私は、ユカリンでーす」と自己紹介した。ユカリンか、ふむ。

 しかしこのユカリン、なんとか雰囲気を盛り上げようとするのか、やたら客席に過剰に反応を求めるのだ。子供たち相手に元気な返事を求める位ならいいのだが、その親にまでそれを強要するのにはマイッタ。

 

 「席に座っている元気なお父さんお母さんも、大きな声で返事をしてくださーい!」

 何人かが返事をする。だが、オレは黙っていた。だって、まだ病み上がりでふらふらなのだ。

 客席からのまばらな返事を聞いたユカリン、どうも不満そうである。心なしか視線が返事をしなかったオレの方を向いているような気がする(なにしろ一番前の席だし)。

 「元気がないですねー。それじゃあもう一度。元気なお父さんお母さんは、大きな声で返事をしてくださーい!!」

 「……」(だから元気じゃないんだってば!)

 

 さて、挨拶が終わって、いよいよショーの中味に入る。何かアトラクションのようなことを行うのかと思ったら、「ピングーとうたおう」というタイトルの通り、ピングーの着ぐるみたちと一緒に歌を歌うのだと言う。といっても、着ぐるみは歌えないから、歌うのはユカリンである。

 「さーてみなさん、寒い南極から、一気に南国気分になりましょー!」

 ステージ上には発泡スチロールの氷などが置かれているのだが、この背景やらセットやらが変わるのかと思ったら、何も変化ナシ。

 ただ、南の国のお猿の歌、「アイアイ」を歌うのだと言う。それだけで南国気分か。いやはや。

 それにしても、お猿の「アイアイ」とピングーといったい何の関係が……?

 

 ステージは「バナナの親子」「大きな栗の木の下で」「ドレミの歌」と、ビングーのキャラクターと何の関係もない歌が次々に続く。

 ユカリンは歌の前にそれぞれの振り付けをレクチャーし、皆でその振り付けで歌うことを強要……いや、提案する。

 ところで、ユカリンとともに、ピングー達着ぐるみキャラクターもその振り付けをするのだが、着ぐるみの構造上、手がまっすぐなままで固定されており、基本的に肩から手をブラブラさせることしか出来ない。どんな歌でも手をブラブラ。一応脚のステップは変えているのだが、手だけはどの歌もブーラブラ。

 

 今ひとつ盛り上がらない会場をなんとかしようと、ユカリンは精一杯に元気をふりまく。しかし、ピングーと全く関係のない歌と振り付けで盛り上がれ、というのが、そもそも相当に無理があるんじゃないだろうか。どうもこのイベントの企画者はピングーというキャラクターを根本的に誤解しているようであった。

 

 傍らの娘は楽しいのか楽しくないのか、ずっと複雑な表情のままである。

 そしてその親は(早く終わんないかな、コレ)と、泣きたいような気分であった。

 

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