太った……。

 体重はここ数年、平均して70キロ台前半を維持してきた。

 たまに70キロ台後半に突入することもあったが、そんなに心配はしていなかった。

 何故かと言うと、ベルトのバックルの穴の位置は変わっていなかったからである。従って「太った」という認識はなかった。

 だから、このままずっといくもんだと思っていた。安心というか慢心していた。

 それがここ一年くらいで太ってしまったのである。今度はベルトの穴の位置がどんどん移動し始めたのである。いや、そうやって移動させないとお腹が苦しくなってしまったのである。

 

 いままでずっと体重を維持してこられたのには、それなりに理由があった。

 前の勤務先の時代では、通勤が大変だった上に、週に何回かは生徒に交じって柔道をやっていたからだ。

 現在の勤務先では、とにかく仕事量が多いため、毎日13時間労働が状態化していたからだ。

 それなのに、なぜここへ来て急に太ってしまったのか。

 理由はわかっている。「受験問題太り」なのだ。

 

 昨年の4月から三年生の担任になり、受験学年ということで、多くの入試問題と格闘することとなった。

 生徒は自分で赤本等の入試問題の過去問を買って自分でやるのだが、やって自己採点をした時に、どうしてもわからなかった問題というのがある。過去問集には一応解説はついてくるものの、なかなか読んですぐに「なるほど」という訳にはいかない。何しろ難関大学の問題なのだ。そこで我々教員の出番になる、という訳である。

 秋くらいから、この手の「問題の解説をしてほしい」という依頼が一気に増えた。

 商売繁盛であり、自分が必要とされているということは嬉しいことなのではあるが、何しろ進学校なので、持ってくる入試問題というのが半端でなく難しい。

 特に国語の問題の場合、自然科学系と違って、パッと見て問題がわかる、ということはなく、現代文・古文・漢文・小論文、いずれの場合も本文と問題文をきっちり読み込む必要があるのだ。これがきついんだよね。

 

 コンピューターを使って動画の編集等重い作業をやっていると、ファンが「フィーン」と頻繁に動き出す。これはパワーを使って発熱しているCPUを冷却するためである。

 人間の脳だって同じなのだ。

 脳のフルパワーを使うには膨大なエネルギーが必要となるのだ。

 脳がエネルギーを求めるのである。「フィーン」と言い始めるのだ。

 パソコンならば風を送ってやるところだが、人間の場合、即効でエネルギーになる「糖分」についつい手が行く。

 

 最初は飴玉程度であった。だが、次々に難問・奇問・悪問を解いていると、その程度ではエネルギーが足りなくなってくる。

 だんだんとグミやハイチュウに手を出し始め、フルーツゼリーを経て、チョコレートやクッキーまで行き着くのに時間はかからなかった。

 飲物も糖分の入った清涼飲料が中心となった。まるで麻薬に手を出した中毒者が、効きが悪くなるため使用量が徐々に増えていくのに似てますね。

 もともと太りやすい体質だったので、それ以前はずっと間食は避けてきたのに、そのライフスタイルは一気に崩壊した。

 とにかく問題を解くのがしんどく、かつ前述したようにここ数年体重を維持してこられた、という慢心もあった。食事の量も内容もずっと変わっていないという思い込みもあった。

 

 巷に「糖質制限ダイエット」というのがある。

 糖質を制限することでダイエットしようというものである。これが効果があるらしい。たくさんの本が出版されているし、実行している人も多いみたいである。脂肪分やカロリーを制限するのではなく、「糖質」というところがミソで、人間は糖質を減らすだけで体重を減らせるのである。

 ということは、逆に「糖」をとり続けることは、太るための直線コースまっしぐら、ということになる。なーんだ、そういうことか。いやいや「なーんだ」とか納得している場合じゃない。

 体重が増えると、明らかにあちこちに弊害が訪れる。まずズボンのウエストがきつくなる。階段の上り下りがしんどくなってくる。内臓脂肪が増えるので、血管内に脂肪が付着しやすくなり、血圧は上がるし、その他の病気の引き金にもなりやすい。血液の流れが悪くなるのは極めて危険なのだ。

 歳をとると基礎代謝能力が落ちるので、それでなくても体重を維持するのが難しくなってくるのである。それなのにこのていたらくだ。

 

 この際だから、仕事用に伸び縮みするメッシュのベルトでも購入するか……いやいやいやそういう問題じゃない!

 体重を落とさねば。

 今度は逆コースということで、「糖質制限」でもやってみるか……。

 

  つれづれ随想録トップへ戻る  管理人室へ戻る  トップページへ戻る