ニモはここにいる

 ディズニー・ピクサーの製作した映画「ファインディング・ニモ」がDVDとなって発売されたので、購入して観た。面白かった。

 公開当時から気にはなっていたのだが、なかなか映画館へ足を運ぶ機会がなかったのである。

 主なストーリーはこうである。

 カクレクマノミ(魚の種類)のマーリンは、愛妻と卵をバラクーダに食われてしまい、残ったの卵は一つだけとなってしまう。

 マーリンはその卵から生れた息子のニモを大切に育てるのだが、ある日、ダイバーがニモを捕まえて連れて行ってしまう。観賞用に水槽で飼うためだ。

 愛する一人息子をさらわれたマーリンは、ニモを探して旅に出る……。

 

 この映画の公開前に、映画宣伝のちょっとしたイベントが汐留であった。

 あきらかに子供向けの企画なのであまり気が進まなかったのだが、カミさんと子供がどうしても行きたい、と言うのでわざわざ会場へ足を運んだ。

 で、そのイベントの中身なのだが、最初に入り口で玉子型のカプセルを受け取り、中を開けると小さなニモのフィギュアが入っている。

 「おお、これはなかなかよく出来ている。これなら来た甲斐があった」、と思っていたら、そのニモのフィギュアをすぐに回収すると言う。なんでやねん。

 しぶしぶフィギュアを返すと、「さあ、これからニモを探す旅に出ましょう」と言う。なるほど。今の回収はニモが「さらわれた」ということのようだ。

 その後、迷路のような入り組んだ道を番号に沿って移動していくと、あちらこちらのコーナーで映画に関するクイズが出され、正解するとスタンプがもらえる、というシステムであった。

 クイズそのものは本当に子供向きなので、映画の予備知識があれば簡単に答えられるもの。我が子はけっこう喜んで順に取り組んでいった。

 

 さて、最後のスタンプをもらうと明るく広いところに出た。

 なにやら中央に水槽があり、魚が泳いでいる。よく見るとカクレクマノミだ。

 「ニモを無事に見つけることができましたー」とのこと。ふーん、なるほど。つまりこの水槽のカクレクマノミがニモで、やっと我々はそれを見つけることが出来て、ここでハッピーエンド、ということらしい。スタンプを押してもらった紙もここで景品と交換するようになっている。

 が、しばらく水槽の魚を眺めているうちに、釈然としない思いがしてきた。

 だってこのカクレクマノミ、このイベントのためかどうかは知らないけれども、結局は海から捕まえてきたものなんでしょ?

 だとしたら、ニモをさらったのはこのイベントの主催者?

 大海原を自由に泳ぐ魚を、人間の勝手な都合で鑑賞用に水槽に閉じ込めてしまう、ある意味その愚を訴えた映画のメッセージを、このイベントの企画を考えた人間は全く理解していなかった、ということであろう。

 ニモは確かにここにいる。ただし捕まったままだ。そして犯人はこの企画の主催者。映画のニモが助かっても、この現実のカクレクマノミが海へ帰っていくことはないだろう。そう考えるとまるでブラックユーモアではないか。

 

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