「痛み」というショートカット
詳細は省くけれど、仕事中に事故で右肩を強打して怪我した。
とにかくすごい痛みで、当日はそのために殆ど眠れず、翌日になって救急病院(祝日だったので)へ駆け込んだ。レントゲンの結果、骨は折れていないことがわかったが、痛みがひどく、三角巾で右腕を吊ってもらってやっと少し楽になったくらいである。右腕の重みだけでも相当に負担だったのだ。
病名は結局「打撲」。翌日には右肩から胸にかけて肌の色が青黒く変色していた。
利き腕が使えない、というのは実に不便極まりないもので、左手だと何をやってもうまくいかない。
着替えをするにもモタモタ時間がかかる上に、シャツの袖を通すだけで肩に激痛が走る。
めしを食うにも左手ではうまく食べられず、めしの味が違って感じられるほどである。
風呂に入っても、左手のみで体を洗うので、当然のことながら左肩や左腕が洗えない。
夜、眠りについても、ちょっと寝返りをうって右肩が体の下の方になると、痛みのために目が覚めてしまい、そのために寝不足気味になってしまったほどだ。
「たかが打撲で?」と他人からは訝られたが、日常的に使う部分(例えば腰や膝なども含めて)の痛みというのは、なかなか治りにくい上に、このようにあらゆる場面に影響を与えるため、結果として多くのストレスを抱え込むことになるのである。
さて、怪我をしてから今日までに既に二ヶ月以上が過ぎている。
だが、痛みはまだとれていないのである。
通常の打撲や怪我であれば、徐々に痛みが引いて治っていくはずのものが、今回の肩の痛みに関しては違っていた。
確かに怪我をした当初ほどの痛みというのは出にくくなっていった。ただし、これは痛みそのものが軽くなったということではない。痛みの出る方向や角度といった範囲が小さくなっていっただけなのである。
したがって、今でもいくつかの特定の角度によっては右肩に錐でつくような激痛が走る。
整形外科も2件ほど行ってみたが、原因はわからない。痛みがあるのが肩の内側なので、「もっと大きな病院に行って、肩に穴を開けてファイバースコープを入れ、内部を調べてもらわないとわからないだろう」と職場で同じように肩を痛めたことのある経験者が教えてくれた。しかしそうなると一日休む程度ではすまなくなり、仕事の都合からいってもこれはなかなか難しかった。
結局、「痛み」と過ごすしかない日々を送っている。
体力勝負の仕事(本業は高校の教員です)なので、二十代の頃からせっせと週3回のウェートトレーニングを続けてきた。そのため、何もしていない同年代の中年男性よりは、多少なりとも筋力も体形も維持することができてきたつもりである。しかし、この痛みのためにトレーニングの続行は不可能になった。なにしろひょいとバッグを手に持っただけでも、角度によっては激痛が走るのだ。ダンベルやバーベルを持つ勇気など出てこない。
しかし、長年続けてきてトレーニングを止めてしまえば、年齢が年齢だから、筋力と体力が落ち、基礎代謝能力が下がって、見る見る体形も崩れていくのは時間の問題であろう。十数年かけて鍛えたとしても、失うときはアッという間なのである。
そういう意味で、「痛み」というのは老化への「ショートカット」みたいなものなのかもしれない。
老人が何かの拍子に骨折や大きな怪我をして、その痛みのためにしばらく動けなくなり、それゆえ足腰の筋肉が一気に衰えていき、結果的に寝たきりになってしまう、ということがよくあるらしい。
実は昨年他界した我が父親もその一人であった。転んで指を強く痛めてからは、好きだった散歩も出来なくなり、ずっと布団に横になってばかりの日々となってしまったのである。そのため、足腰もげっそりと細くなり、外出はおろか、家の中を移動することすら困難になってしまった。
年を取るに従って、体力が徐々に落ちていくことは仕方がないことではある。だが、それがショートカットで予定よりも一気に早まる、というのはなんともツライ。
スゴロクやボードゲームで、サイコロやルーレットの出た目によっては、一気にゴール近くまでジャンプできる場合があるが、あれとは違うもんなぁ。なにしろこの場合の「ゴール」にあたるのは「死」なんだから。