ファックスをめぐる煩悶

 年末にファックスのインクがなくなり、買いに行ったら3,500円もとられた。高い。すごく高い。なぜか? 殆ど使わないインク代だから。ン?

 

 ファックスを自宅に導入したのは今から4年ほど前だ。当時カミさんの友人間で、手紙代わりにファックスで色々とやりとりするのが流行っていて、自分がそれに参加できないのが悔しいらしく、「今どきファックスのない家なんかない!」と彼女は強く主張した。そこで、ファックス付きの電話を買うことに踏み切ったのである。

 購入に当たっては、やはりカミさんの「来たファックスを保存しておきたいから」という理由で、ランニングコストの安いロール紙使用ではなく、当時普及しはじめていた普通紙ファックスのものを選ぶことにした。

 家電ショップに行くと色々な製品があって、どれを選んでいいのかわからない。店員に相談すると、普通紙ファックスは印刷方式によって、「インクリボンタイプ」と「インクジェットタイプ」とがあると言う。これはどちらも一長一短で、ランニングコストはそんなに変わらないと言い、印刷見本を見せながら、「濃淡の階調の表現はインクジェットの方が上です」と言い切った。

 そのインクジェットの製品で注目すべきものがあった。NECの「speax J2CL」だ。なぜこれに注目したかというと、用紙を本体の下にセットする省スペースタイプだったからだ。他の製品はすべて用紙は上に斜めにセットするため、高さと奥行きを必要とするのだが、この製品は違っていた。ちょうど本棚に設置することを考えていたこともあって、それが購入の決め手となった。

 

 新たにやってきたファクスは、当初、カミさんの希望通り友人間でのやりとりに活躍した。

 が、蜜月の時は短かった。

 我が家にパソコンが導入されたのである。それと同時に、カミさんの友人間でのやりとりはすぐ「メール」に移行し、あっと言う間にファックス文通は廃れてしまったのである。

 

 さて、ほとんど使わなくなったファックスであるが、それでも一日に一回、決まって午前10時頃に「ビィーッ、ビィーッ」と、あたかも受信した時と同じ音を発することに気がついた。

 それで不思議に思って説明書を見てみたら、インクのノズルの目詰まり防止のために、一定期間でインクを噴き出してクリーニングするように出来ているのだとか。ふーん、てことはもしや……。

 危惧したとおり、ファックスはあまり使っていなかったにもかかわらず、やがてインク切れを起こした。

 ところで今のファックスはたとえインクがなくなっても、いったん受信した情報はメモリーに記録される。そして新たなインクをセットした時点でプリントアウトするように出来ている。

 この時も電話機はメモリーに記録があること示していた。仕方ないからインクを購入する。新しいインクをセットされたファックスは、メモリー分をプリントアウトした後、例によってあまり使われることもないまま、引き続き毎日午前10時頃に「ビィーッ、ビィーッ」とむなしくも律儀にインクを噴き出す作業を再開した。

 

 そして昨年末。またしてもインク切れとなったという訳である。たぶん前回のインク交換から2〜3枚しかプリントアウトしていないんじゃなかろうか。たまらんなあ、これ。

 家電ショップで新しいインクを買った後、ついでに電話機売り場を覗いたのだけれど、もはやインクジェット使用のファックスなど一台も存在しなかった。ロール紙使用のものもなかった。つまり現在は好もうと好まざるに関わらず、普通紙・インクリボンしか選択肢はなくなっていたのである。

 「買い換えるか……」とも一瞬考えたが、何しろカバンの中には買ったばかりの我が家の電話機用のインクが入っている。しまった。もう遅い。それに現在のファックスもそれなりのお金を払って購入した(定価で68,000円だった)機械であり、そもそもまだどこも壊れていないのだ。

 とにかく、今回買ったインクは使い切るより他に仕方がない。しかし、もしまたインク切れになった時点で、メモリーに受信記録があったら……。

 つくづく頭の痛い話である。

 

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