亀戸「升本」大根づくし

 昔、江東区は亀戸で大根を作っていたとか。その後、宅地化が進んで、この大根は作られなくなってしまったのだが、この幻の大根である「亀戸大根」を農家と契約して現代に復活させて、なおかつ料理として出している店がある。それが亀戸の老舗である「割烹 升本」だ。

 この店で「亀戸大根あさり鍋会席」を食べる機会があった。さて、亀戸大根の実力やいかに。

 

 蔵前橋通りに面した「升本」本店の正面入り口。

 ライト・アップされた和風のたたずまいに味わいがある。

 これが噂の「亀戸大根」。

 現在スーパー等で多く売られている青首大根に比べると、細くて小さい。だが、ビタミンCは「普通のダイコンの2倍以上」(店のパンフレットより)だとか。

 

 店のマークが亀戸大根をあしらったものなのだが、箸置きまでがまったく同じ形の木彫りの亀戸大根の形であった。

 ちなみにこの箸置きはリバーシブルで、反対にも同じ彫刻がほどこしてある。

「先付け」

 ダシ汁で煮たらしい亀戸大根の上に湯葉をのせてある。緑のあんは胡瓜のような風味がした。

 大根にダシの味がしみこんでいて、これがなんとも旨かった。

「茶碗蒸し」

 中に大根らしきものが入っていたが、あるいは山芋かもしれない。でも山芋じゃあんまし意味ないからやっぱり大根だったのかな? 今となってはナゾだ。

「お造り」

 まぐろは本マグロらしく美味。

 手前の煮こごりは胡瓜のような味と触感だったが、何だったのだろう?

 

 大葉の影で見えないが、しっかり「大根」はツマとして存在している。

 

「亀戸大根すてぃっく」

 これは単品料理で店のメニューにも出ているのだが、何故平仮名なのかは不明。

 生で食べる亀戸大根は意外に淡白。辛味もほとんどない。

 

 実は左の2本はホンモノだが、真ん中の葉付き大根は皿と一体の飾り絵なので食べられない。

「焼き物」

 手前は亀戸大根をイカのワタであえたもの。

 奥はメダイの「シュンサイ焼き」と仲居さんに教えられた。春菜? 旬菜? どういう字を書くのかわからないが、野菜の香りを利かせて焼いたメダイがホクホクとして日本酒にピッタリ。

「揚げ物」

 手前はカボチャの天ぷら。奥のししとうの下にあるのが芝エビと亀戸大根のかき揚げ。大根も良かったが、芝エビのぷりぷりの触感と甘みがなんとも!

「亀戸大根あさり鍋」

 亀戸大根と江戸前のあさりを味噌仕立ての鍋にしたもの。

 溶岩のような形をした、韓国製の石鍋で煮込む。

 この鍋には「太鼓橋うどん」という独特のうどんが入るのだが、これが「うどん」と言っても幅が5p位あるラザニアのようなもの。生のものと揚げたものとの二種が入る。

 

 左側の油揚げのように見えるのがその揚げた太鼓橋うどんだ(右下のは本物の油揚げ)。

 左側の餅のように見えるのが太鼓橋うどん。平たく薄いので、煮込むと旨みを吸って実にいい味となる。

 

 この店では「南蛮漬け」という青唐辛子と米麹で作った調味料を用意してくれるのだが、これを入れるとピリッとして味がひきしまり更にウマくなる。

「麦菜飯」と「亀戸大根たまり漬け」

 青菜の入った麦飯に、いいダシが出た鍋の残り汁をかけて食す。雑炊と違ったさらさらとした触感が、濃い味噌仕立ての汁に良く合う。深川めしにも似ており、おそらくは江戸庶民の食べ方なのであろう。

 

 左の漬物は亀戸大根のたまり漬け。

「甘味」

 なんと驚くなかれデザートまでが大根だ!

 右側の白い餡がかかっているのが柚子蜂蜜漬けの大根。

 その下の黒っぽいのが黒糖漬けの大根。

 確かに触感は大根そのものなのだが、実に上品な和菓子の味に仕上がっていてびっくり。

 左側のは……忘れた(笑)。この頃にはもうだいぶ酔っ払っていたし、大根に比べると印象が薄かったもんで。

 

 店で配っているパンフレット「亀戸大根物語」の中に載せてある、次のような立松和平氏の文章が印象深い。

「大根は偉い。

 どんな味にも馴染み、相手にあわせてその場の雰囲気を盛り上げながらも、絶対に自分を失うことはない。

 融通無碍でありながら、自分が大根であるという誇りを失わない。大根のように生きられたら、それを人生の達人というのだろう。」

 

 うーん、さすがに作家は言うことが違うわ。

 

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