下町の名店「ル・カナール」

 先日の我が誕生日に、プレゼント代わりにと、カミさんがコツコツと働いた貴重なバイト代をはたいて(ここを強調して書けとの注文あり)近所のフレンチ・レストラン「ル・カナール」での食事をご馳走してくれた。

 この店はオーナー・シェフが調理師学校や大学の講師を務める人物で、その合間に一人で店を切り盛りしているため、客は一日一組だけの完全予約制の、知る人ぞ知る名店なのである。

 そこで一人前9,450円(税込み)の料理を堪能してきた。

 

 住宅街の普通の通りにある「ル・カナール」。

 昼間電話をかけても殆どつながらず、なかなか予約がとれなかったのだが、今回やっと念願叶ったのである。

 

 今回知ったのだが、店のオーナーによると、昼間はセールス電話ばかりが多くてうんざりするため店にいても出ないことが多いのだとか。だから、予約をしたい時には留守電に入れてくれれば、かけなおしてくれるとのこと。

 フレンチのコース料理は久しぶりだ。

 この並んでいる食器を見ているだけでワクワクする。この食器の使う順を間違えないかどうかいつも悩まされるが、何しろこの店は自分達以外客がいないし、店の人もオーナー・シェフ一人きりなので緊張するということがない。それに、わからないことがあれば、オーナーに聞けば何でも教えてくれる。なんと言ってもこの人は現役の「先生」なのだから。

「鴨のコンフィ・サラダ仕立て」

 「コンフィ」というのは、低温の油でじっくりと時間をかけて煮る料理法のこと。

 この店の「鴨のコンフィ」は、3時間塩漬けにした鴨を1時間半かけてラードとフォアグラの油で煮るのだとか。

 香りも触感も豊かな鴨が野菜と合っていて実に美味。

 ご覧の通りボリュームもあるので食べ応えも十分。

La Grande Cuvee 1998 Medoc

 ワインも頼んだ。フルボトルで6,000円。外食でワインを頼むとやっぱり高いなぁ! ボディのある赤ワインはボディ・ブローのように財布にまでズシンと響くのであった。

「フォアグラのソテー」

 鳥インフルエンザ騒動で、ガチョウのフォアグラが手に入らない為、この日は鴨のフォアグラを使用したとのこと。

「鴨のフォアグラだと、焼くとすぐに溶けて油になってしまうんですよ。でもそこはうまく焼きますから」と説明してくれる。

 上に乗っているのは洋ナシ。

 ごらんの通りの完璧な火の通り具合。

 ソースは洋ナシ果汁をベースに、十五年もの(!)のバルサミコ酢が隠し味に用いられているとのこと。甘さと酸味のバランスよいソースがフォアグラにバッチリ。

「オマールエビのアメリカンソース」

 「アメリケーヌソース」とも呼ばれる、オマールの殻から作った濃厚ソースでいただくプリプリのエビの身が美味しい。

 添えられている野菜はちりめんホウレン草。市販の所謂普通のホウレン草にあるようなえぐみがまったくない。

「ハト肉のロースト」

 手前はハトの胸肉の部分で、完璧な火の通り具合。これは20年前にフランスで覚えた特殊な調理法を用いているとのこと。すごく柔らかでジューシー。ポートワインのソースが実に良く合う。

 奥に添えられているレンズ豆の上に乗っているのは、鳩の足の部分。こちらは外側の皮がカリカリに焼けていて、肉が香ばしくてなんともウマイ。

 平和の象徴・鳩は食べる人の心も平和にするのであった。

「イチゴのババロア」

 ふんわりとしたババロアはイチゴの味が濃厚。下に敷かれたイチゴソースも絶妙。

 

 ところで、デザートの後にコーヒーを出してくれたのだが、「ウチではミルクや砂糖はお出ししていないんです」とのこと。何でもコーヒーの消化酵素の働きをなくしてしまうからなのだとか。学校で教えているだけあってホントにオーナーは博学で、とても勉強になるのだ。

 店名の「ル・カナール」というのはフランス語で「鴨」のこと。そのせいか店内のいたるところに鴨の置物があるのだが、オーナーが揃えたのではなく、殆どは客が持ち込んだものだとか。

 トイレの中にまでこのように鴨がいるのだが、用を足しているところを、首をにゅっと伸ばして覗き込んでいる鴨がいるのには苦笑させられる。

 

 この店のオーナー・シェフは、もともと編集者の仕事をしていたのだが、料理好きが高じて30歳の時に転職、以来40年以上調理人として腕を磨き続けてきたのだという。現在72歳。「転職して本当に良かった」と言い、学校で教える傍らで、このように今尚現役で美味しい料理を作り続けている。

「この仕事は腕があれば幾つになっても続けられるのがいい。」

「好きなことをやっていなければ、料理だって美味しくできない。」

 ここにも「人生の達人」がいた。

 

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